2018年8月31日金曜日

なぜ専門大学院は留学生を採るのか ~本音と建前~

今回はちょっと身も蓋もないことを...

アメリカの大学院(の学部と修士専門プログラム)はなぜ留学生を採るのか。特に、「修士専門プログラム(※1)で主に東アジアの(派遣)留学生をなぜ採るのか」について、フォードスクール在籍中に感じたこと、現在のPh.D.プログラムに移ってから初めて理解できたことをまとめてみたいと思います。

最初に断っておきたいと思いますが、その本音と建前について(それが存在することも含めて)「良いか悪いか」という価値判断をするものではありませんし、ましてや「だから留学は意味がない」というものでは決してありません。


た て ま え

優秀な留学生の経験と知見を取り入れ、プログラムの質を強化する。また、それら留学生との知的交流を通して、アメリカの公共政策の担い手たるアメリカ人学生に、多様な価値観と視点を養わせる。

あ、はい...
多くのアメリカ人学生は、留学生の経験や知見を「参考にしようと興味をもって耳を傾け」ているというより、「自分とはあまり関係なさそうな世界で起こったひとつの個別事例」だと捉えていました。ひどい例では、「(英語がヘタで)何言っているかよくわからなかった」という声を聴いたこともあります...



ほ ん ね

ビジネス

これはもう、仕方ありません。彼らも慈善団体ではありませんから。
主に州立大学の、どのプログラムにも当てはまることですが、二つの異なる学費が存在します。

「その州出身(在住)の学生用」 + 「州外出身および留学生用」

フォードスクールの場合、この9月から1年間の学校年(Academic Year)で

州内学生 = 半期につき$13,240
州外・留学生 =半期につき$23,860

となっています。これ、半期ですから、留学生の学費は年間で$47,920、1ドル110円で計算すると軽く500万円を超えます。ちなみに私が入学した年は半期で$20,692でしたから、この4年で15%値上がりしたことになります! アメリカのインフレ率(消費者物価ベース)が2014-2018年で累計で約6.2%の上昇ですから、高等教育の学費高騰が社会問題化するのも頷けます。

もちろん、この異なる扱いは、州立大学の主たる設立目的が

その州出身(在住)者に高等教育の機会を提供すること

であり、それを前提として州政府から莫大な資金提供を受けている以上、仕方ないというか、当たり前ではあります。

ただ、大学にとって、留学生、特に派遣留学生は、この高い学費を文句も言わず、しかも取りっぱぐれのおそれも(ほぼ)なく払ってくれる大事な資金源であることは言うまでもありません。

また、派遣留学生は毎年コンスタントに留学生を送り出しますから、その派遣元から多くの学生を採用することは、中長期的に安定した資金源を確保することにもつながります。

さらに、派遣留学生は、派遣元との雇用関係と紐づいているので、「品行方正で勤勉であり、ドロップアウトすることなくきちんと卒業してくれる」と思われているようです。

さらにさらに、派遣留学生はコスパがいいという点も挙げられます。
これは、 公共政策大学院選び① でも述べたように、専門大学院が「職業訓練校」であるという性質と関係しています。

職業訓練校である以上、卒業生がそれなりの組織に就職することがKPI:Key Performance Indicatorであり、スクールのかなりのリソースもそこに割かれます。

この点、留学生は帰国すればもとの(一流)組織に復帰するわけですから、スクールとして就職支援というコスト(※2)をかける必要がありません。したがって、「高い学費を払うけどコストがかからない」派遣留学生は、学生一人当たり利潤が極めて高いということになります。

このように、(派遣)留学生はビジネス上重要な「お客様」であるというのが、彼らの偽らざる本音です。良くも悪くも。

実は私がこの本音を痛感したのは、スクール(の一部スタッフ)とのやりとりの中で悔しい経験をしたからです。
― 詳しくは書きませんが、私が非派遣留学で就活の必要があり、かつアメリカでの就活を目指していたことに対して、ごく一部のスタッフから「え?(話違わね?)」といった態度を取られました。


最後にもう一度断りますが、決してこの本音と建前の存在が良いとか悪いとか、だからカモられているとか、だから留学に意味はないとは言いません。

私はアメリカ人学生にいい影響を与えることができたと自負しているし、多くのことを学んだし、何より多くの教務スタッフや教授陣がとても親身に接してくれ、そのおかげで今のPh.D.プログラムにいる自分があるのだと本気で思っています(後日、そのエピソードも書いていくつもりです)。


今回のエントリーは、なんというか、

肩の力を抜いて、留学という素晴らしい機会をご自身のために活かしてもらえたらいいな

と思って書いてみました。


(※1)修士号は、専門大学院(公共政策、ビジネスetc)修了または博士課程の前期課程修了のいずれかで認定されます。
(※2)就職支援人員・プログラムにかかる直接経費に加え、就職できない学生の存在によってプログラムの就職率が低下するというコスト。

2018年8月29日水曜日

公共政策大学院選び②~スクールごとの強み・弱み~

公共政策大学院選びで何を重視するか。

これが、自分の中で、留学前と後で最も変化したことかもしれません。

振り返ると、出願先を選ぶ時に考えていたのは、

「とりあえずランク上位15校くらいをリストアップするか」

程度のことでした。もちろん

「せっかく会社を辞めて留学するんだから、できるだけ多くの日本人に名が通っている大学じゃないと、みっともないな」

といったミーハーな考えもありましたが、実際のところは、「ランクと所在地以外にプログラムを区別できる情報が得られなかった」というのが正直なところです。
(企業等から派遣される場合、一定以上のランクのプログラムでないと留学が認められないケースもあるようです。)

知り合いに公共政策大学院に留学していた人もいなかったし、各プログラムのカリキュラムも形式上は似たようなものだったので、チョロっとネットサーフした程度では、各スクールがどういう特色(強み)を持っているのかがわかりませんでした。

そもそも、そういう違いが存在することすら認識できていなかったと言ったほうが正確かもしれません。 留学してみて初めて、各プログラム・大学によって強みと弱みがあることを知りました。

我がミシガン大学フォードスクールを例にとると、貧困・教育政策に非常に強いという印象でした。専任教授の研究領域も、経済や外交より人種差別、貧困、教育格差、人権といった分野が多いことがわかります。特に教育政策に関しては、Susan Dynarski, Brian Jacob, Kevin Stange の三人衆を擁する、知る人ぞ知る研究拠点となっています。   

「じゃあその強み・弱みをどう事前に見極めるか」

と聞かれると、やっぱり月並みですが
①選択科目の授業リスト(Course Listing)を見る
②そのシラバス(Syllabus)が公表されていればそれも見る
③同じ大学の他の専門大学院の分野を見る
④直近数年で新規採用されたAssistant Professorの研究領域を見る
⑤キャンパスを訪れる

ことぐらいかなと思います。

①と②は、「選択科目」という点がポイントです。
公共政策大学院選び①でも紹介しましたが、必修科目に関しては、どこのスクールも大差ありません。選択科目にこそ、そのスクールの特色がでます。例えばフォードスクールの今年の秋学期のリストを眺めると、"Education Policy" "Community Development" "Drugs, Crime, and Terrorism" といった特徴あるキーワードが見られます。これらは必ずしも毎年オファーされるわけではないので、過去数年分のリストを参照することをお勧めします。

③も実は①と②に近いのですが、例えばミシガン大学では、School of Business はもとより、Schools of Social Work / Public Health / Urban Planning / Education / Natural Resources and Environmentなどがあり、そこでオファーされる授業を取ることができます。もし自分の興味のある分野のスクールが個別にあれば、 その分野をより一層深堀りすることができます。

④は、そんなに頻繁にあることではない(およそ3月から4月に発表されることが多いです)ですが、実は案外お勧めです。新任教授の研究領域に沿った選択科目がオファーされる可能性も高いですし、彼女らの研究領域は、そのスクールの向こう数年の方向性が表れていると思います。ググればすぐにCV(履歴書)を見ることができます。

⑤は、各スクールのが出そろった3月から4月にかけて「Spring preview」などと銘打って、進学決定・未決定者のために自スクールを紹介するイベントを開催しています。ただこれは、お金も時間もかかりますし、そこで得られる情報は①~④に比べてそこまで決定的ではないですし、正直コスパは悪いです。ただ、キャンパスやマチの雰囲気を肌で感じることができるというメリットはあるかもしれません。


最後に、これらはあくまで「複数のスクールからadmission offerをもらった場合に、その中からどこを選ぶか」という段階で役に立つかもしれない情報です。

出願時点では、やはり「TOEFLの点数をベンチマークとして、ランクの高いプログラムから順に出願する」ことをお勧めします😉