アメリカの大学院(の学部と修士専門プログラム)はなぜ留学生を採るのか。特に、「修士専門プログラム(※1)で主に東アジアの(派遣)留学生をなぜ採るのか」について、フォードスクール在籍中に感じたこと、現在のPh.D.プログラムに移ってから初めて理解できたことをまとめてみたいと思います。
最初に断っておきたいと思いますが、その本音と建前について(それが存在することも含めて)「良いか悪いか」という価値判断をするものではありませんし、ましてや「だから留学は意味がない」というものでは決してありません。
た て ま え
優秀な留学生の経験と知見を取り入れ、プログラムの質を強化する。また、それら留学生との知的交流を通して、アメリカの公共政策の担い手たるアメリカ人学生に、多様な価値観と視点を養わせる。
あ、はい...
多くのアメリカ人学生は、留学生の経験や知見を「参考にしようと興味をもって耳を傾け」ているというより、「自分とはあまり関係なさそうな世界で起こったひとつの個別事例」だと捉えていました。ひどい例では、「(英語がヘタで)何言っているかよくわからなかった」という声を聴いたこともあります...
ほ ん ね
ビジネス
これはもう、仕方ありません。彼らも慈善団体ではありませんから。
主に州立大学の、どのプログラムにも当てはまることですが、二つの異なる学費が存在します。
「その州出身(在住)の学生用」 + 「州外出身および留学生用」
フォードスクールの場合、この9月から1年間の学校年(Academic Year)で
州内学生 = 半期につき$13,240
州外・留学生 =半期につき$23,860
となっています。これ、半期ですから、留学生の学費は年間で$47,920、1ドル110円で計算すると軽く500万円を超えます。ちなみに私が入学した年は半期で$20,692でしたから、この4年で15%値上がりしたことになります! アメリカのインフレ率(消費者物価ベース)が2014-2018年で累計で約6.2%の上昇ですから、高等教育の学費高騰が社会問題化するのも頷けます。
もちろん、この異なる扱いは、州立大学の主たる設立目的が
その州出身(在住)者に高等教育の機会を提供すること
であり、それを前提として州政府から莫大な資金提供を受けている以上、仕方ないというか、当たり前ではあります。
ただ、大学にとって、留学生、特に派遣留学生は、この高い学費を文句も言わず、しかも取りっぱぐれのおそれも(ほぼ)なく払ってくれる大事な資金源であることは言うまでもありません。
また、派遣留学生は毎年コンスタントに留学生を送り出しますから、その派遣元から多くの学生を採用することは、中長期的に安定した資金源を確保することにもつながります。
さらに、派遣留学生は、派遣元との雇用関係と紐づいているので、「品行方正で勤勉であり、ドロップアウトすることなくきちんと卒業してくれる」と思われているようです。
さらにさらに、派遣留学生はコスパがいいという点も挙げられます。
これは、 公共政策大学院選び① でも述べたように、専門大学院が「職業訓練校」であるという性質と関係しています。
職業訓練校である以上、卒業生がそれなりの組織に就職することがKPI:Key Performance Indicatorであり、スクールのかなりのリソースもそこに割かれます。
この点、留学生は帰国すればもとの(一流)組織に復帰するわけですから、スクールとして就職支援というコスト(※2)をかける必要がありません。したがって、「高い学費を払うけどコストがかからない」派遣留学生は、学生一人当たり利潤が極めて高いということになります。
このように、(派遣)留学生はビジネス上重要な「お客様」であるというのが、彼らの偽らざる本音です。良くも悪くも。
実は私がこの本音を痛感したのは、スクール(の一部スタッフ)とのやりとりの中で悔しい経験をしたからです。
― 詳しくは書きませんが、私が非派遣留学で就活の必要があり、かつアメリカでの就活を目指していたことに対して、ごく一部のスタッフから「え?(話違わね?)」といった態度を取られました。
最後にもう一度断りますが、決してこの本音と建前の存在が良いとか悪いとか、だからカモられているとか、だから留学に意味はないとは言いません。
私はアメリカ人学生にいい影響を与えることができたと自負しているし、多くのことを学んだし、何より多くの教務スタッフや教授陣がとても親身に接してくれ、そのおかげで今のPh.D.プログラムにいる自分があるのだと本気で思っています(後日、そのエピソードも書いていくつもりです)。
今回のエントリーは、なんというか、
肩の力を抜いて、留学という素晴らしい機会をご自身のために活かしてもらえたらいいな
と思って書いてみました。
(※1)修士号は、専門大学院(公共政策、ビジネスetc)修了または博士課程の前期課程修了のいずれかで認定されます。
(※2)就職支援人員・プログラムにかかる直接経費に加え、就職できない学生の存在によってプログラムの就職率が低下するというコスト。